「永遠のうた eternal songs」ふたり姫篇Ⅲ(大阪ドイツ問題篇)
▲第一節 赤い瞳の龍(Side玄武)
大阪北新地駅のほど近く、梅田界隈に面した繁華街ビルの二階にある、「キャバレーJP」にその男はいた。年の頃は初老からやや歳を重ねた感があり、頭は見事に禿げ上がっている。迷路のように入り組んだ梅田界隈は、メイド喫茶、飲食店、ラブホテルなどが乱立し、一種独特のカオス世界を形成している。
この、松田玄武という名の老人は、店ではキャバレー嬢を何人も侍らしているわけではないが、JPからは好感を持たれていることが、ウエイターの態度からもうかがえる。
「松田様、本日はいかがいたしましょう。新人のコンパニオンがはいっておりますが。」ウエイターがひざまずいてお伺いを立てている。この客の名前は、占い師松田玄武という。
「あ、ごめんね、今日はワシ、ここで待ち合わせしてるの。もうすぐこの店に、黒づくめのファッションの女性が来ると思うねん。ドレスとかじゃなく、法衣の黒だからすぐわかると思うわ。いらっしゃったらここにお通しして。」
ビールを飲みながら、その松田という男は、隣に座るキャバ嬢の胸元を覗きこむ。キャバ嬢もまんざらではないのか、髪をかき上げ、首筋をあらわにうなじをさらす。そして、胸元の十字架のネックレスをつまんで見せた。
“矢光”それがこの松田玄武の特殊能力である。万物を見通す目、すなわち、霊視能力である。過去、現在、そして未来が、矢光により玄武の脳裏に映像として浮かび上がる。フリーメイソンに伝わるところの“プロヴィデンスの目“と同質のものである。左目の邪眼、偽りを見抜く閻魔の眼である。
心眼には二種類ある。額にあると言われる心眼第三の眼。一つは偽りを見抜く邪眼“矢光”、そしてもう一つは、相馬猛の祖父である相馬白虎の持つ癒しの目“白月光”。左目の矢光、右目の白月光という両目である。
キャバ嬢のおっぱいを眺めながら、鼻の下を伸ばした松田は考えていた。
この姉ちゃんに水子はいないか。なかなかの器量よしやな。身持ちも堅そうだし、うちの息子の嫁にちょうどいいかもしれんな。今度は息子を連れてまた来よ。松田はビールをちびちびと飲みながら、思いを巡らす。
「松田様、お連れの方がいらっしゃいました。」ウエイターが一人の女性を案内する。ARKの”あの方“様である。
「久しぶりやな、松田のじいさん。」
「よう、久しぶり、ARKの占い師さん。」“あの方”の本名はだれも知らない。あえて、名前を隠しているようだ。「あの方」で名前は通っている。
しかし、”あの方”は大阪では結構有名な占い師の様だ。ARK自体は関東圏の宗教団体だが、”あの方“は普段は大阪で占い師業をしている。本名どころか呼び名すら分からないので、皆、様々な呼称であの方様を呼んでいる。占い師としての名前は、「ゆい」である。主に、不倫の復縁とか、離婚問題、呪術系まじない等をしている。
「松田さんは、広島系やったね。山賀組?大阪にいるところを見ると、神戸系の神谷家のお付き?」
「いや、ワシはそんな大きなところは知らんよ。一般客のお得意様を相手に、姓名判断とか、霊査とか、もろもろの過去因縁の浄化なんかを細々とやらしてもらっとるに過ぎん。」
「なあ、松田さん。世界情勢に明るい人、お客さんの中におらん?松田さんの人脈なら居るんじゃない?軍隊関係も含めて。」
「そりゃあ、なんとも物騒な話だな。どうしたね、急に。おぬしのところは、宗教団体が母体じゃなかったか。それとも信者が争いにでも巻き込まれてとばっちりを受けたか?」
「私の能力、まだ覚えてる?松田さん。」
「確か、カード預言の能力者やろ?カードで未来を占う能力やったか?つまり、未来予想が当たる占い師な訳や。なんや、変な符でも出たか?」松田は内心、こう思っていた。いや、この女の能力は、未来を当てるんじゃなくて、出た目の通りに未来が“変わる”んやろな。創造神ブラフマン能力、ギアスの呪いじゃな。こりゃあおっかないわい。
「聖導王朝という団体から、核戦争を匂わせる預言詩が公表された。どうも、今回は本物の気がする。」
「ほほう、聖導王朝ね。」松田はほくそ笑いを口元でかみ殺していた。
「あんまりシリアスに思い悩みなさんな、占い師さんよ。うちらの商売は、当たるも八卦、当たらぬも八卦じゃ。」
「占い師さんよ、親鸞の預言ってご存知か?”津波、大津波、大地震“ってな。意味はいかようにも取れるわな。」
「お客様、そろそろお時間です。延長なさいますか?」キャバレーのウエイターが問いかける。
「いや、まあ、そろそろ出ようや。ここの支払いはワシがしておくでな。またな、占い師さん。しかし、いつになったら本名を教えてくれるんや?」
「私の本名は永遠に秘密よ。ノートにメモられたくないからさ。」あの方は苦笑いをしながら答えた。
「ボーイさん、領収書くれるか? ああん? 1万7千770円か。ぶーん、今回はこういう数字の並びな訳ね。よく分かった。」
外に出ると、周りはすっかり冷えこんでいた。晩秋の夜は、空気も冴えて、星がよく見える。
「かーごめかーごめー、かーごのなかのとーりーはー。いついつでやる~♪。空海さん、あんた本当に未来人だったんやね。」鼻歌交じりに松田は家路についた。かごめかごめのわらべ歌は、弘法大師空海の作という説があるのだ。
「鶴と亀が滑ったら、後ろの正面におるのは、どう考えても鯉だわな…。鯉は不老長寿の妙薬、人魚の肉とも呼ばれるわな。臓器ドナー問題とかな…」
玄武とあの方、ふたりのやり取りを、ビルの物陰からじっと聞いていた男が居る。店のどこかに、盗聴器が仕掛けられていたようだ。黒いサングラスに、たばこをくゆらせている。にたりと笑う口元は、邪悪な蛇を思わせる。
「黒ウサギ見っけ!」黒いサングラスの男は、あの方様の背後を、300メートルほど離れて尾行し始めた。
松田は考えていた。口腔爆撃系女性一人と、原泉徴収系女性をふたり、あとは掻く男3人か。そんなけおれば、地球世界は抑えられるわな。デリヘル嬢ひとり、OL系ふたり、オトコ3人ね。何とかなるな。航空爆撃機、原子力潜水艦、核爆弾。本気で軍隊を持つつもりである。
松田にとってのとりあえずの“世界”は、大阪である。世界の縮図がそこにある。
▲第二節 おもかるの封印(Side玄武)
「北極星が二つ。厄介なことじゃ。」北極星は、六芒星を表し、動物で例えると亀を表す。亀はひたすらマイペースに歩き続ける千代に八千代に天皇家世界である。北極星ふたつとは、日本の南北朝時代、つまりふたつの天皇家の時代であり、昔はそれに引き続き応仁の乱が起きた。世の中が乱れる兆候である。
「日本が二つに分かたれるか。海外の食い物にされんようにせんとな。始まりは二つの企業のせめぎあいであろう。軍事産業がらみか?
トヨタと三菱みたいなもんか?マツダはどっちに着くかのう。マツダはトヨタ系列じゃがな。」松田玄武の独り言である。
松田玄武にとって、世界中の事は、買い物レシートの数字の並びを読み解けばわかる。まあ、そういう占いだと思ってもらえればよい。マヤ暦とか、カバラとか、数字の羅列から意味を読み取る占いである。
先ほどのキャバレーで使ったお金、1万7千770円は、1万=まん(女性器)=田(豊田)を表し、7は完全数(神の数字)=エンジェル(♦)なので、スリーダイアモンドの三菱を表す。777は、狐三匹7+7+7=21になり、21世紀みずがめ座時代を表す。田というのは子宮を表し、子宮は聖杯なので、子宮2つで8+8=16世紀応仁の乱と読める。
21世紀と16世紀が並列存在しておるわけだな。さらに、亀世界12世紀界の時計12進数界の、全三層な訳だ。12世紀と言えば、奥州藤原氏の平泉金色堂(極楽浄土)な訳だ。世界が三つに分かれたわけか。すなわち、Tarot12の”吊るし人”界が奥州平泉、Tarot16の”崩壊の塔”がTOYOTA、Tarot21の”世界”が三菱か?
ワシのところには、バニーちゃんでも来るのか?時間ウサギ不思議の国のアリスみたいにな。時計世界ならそうなるな。
玄武は家に帰ってからぼんやりとテレビを観ていた。テレビからは、食い倒れグルメ旅のバラエティー番組が、乾いた笑い声をまき散らしていた。明日にでもうまそうなもんを何か買って来るか。TVにも、何らかのメッセージ、暗号が隠されとるな。芸能人の隠し子騒動とか、芸能人同士の不倫情報とかな。わざわざ週刊雑誌を買う必要もないわ。
明日は息子が久しぶりに里帰りする。朝のご祈祷が終わったら、妻と連れ立って迎えに行くかな。
「おーい、スザク! 明日の準備は大丈夫か? 聡を関空まで迎えに行くで!」玄武が妻のスザクにそう提案した。
翌朝になった。関西国際空港にて、アメリカシカゴからの航空機を待つ松田夫妻のもとに、見覚えのある四人組が現れた。木下家御一行である。ひかると玄武は顔なじみの様だ。
「あのー、ひょっとして玄武おじちゃんじゃないですか?大阪に来たら会いに行きたいなーと思ってたんですけど、すごい偶然!」
「おお! 木下家のお嬢ちゃんか!久しぶりやな!どこぞへご旅行か?今日は平日やけど。」
「学校には休学届を出してきました。実は私たち、疎開するんです。いろいろあって、できれば韓国か台湾あたりに行きたいなあと思うんですけど、とりあえず九州まで行こうかなあと。ねえ、おじさま、昔占っていただいたときにおっしゃっていたことおぼえてらっしゃいます? “水柱が二本立った時、日本を大地震が襲うから、その時は一週間以内に日本国内から逃げ出せ” とおっしゃってくださいましたよね。水柱って、潜水艦からのミサイルかなんかですか?」
「うーん、親鸞の預言で“つなみ おおつなみ だいじしん”ってあってな。まあ、取るに足らない与太話と思ってもらえばよかったんじゃが。」
木下誠司が間に割って入る。
「こんにちは、ひかるの養父の誠司です。御予定があるところ、話しかけてしまい申し訳ございません。私たちも先を急ぎますので、これにて失礼いたします。また改めておうかがいさせて頂きます。では、先を急ぎますので。行くよ、ひかる。」
しろがねもこちらをちらりと一瞥して踵を返す。その一瞥の先に、柱の陰に長身の美丈夫男性が見える。帽子を目深にかぶっているが、黒いしみの様な、陰のように黒い闇を思わせる黒服である。ARKに出現したドラキュラの青龍である。
しろがねが青龍を確認してほくそ笑む。
「わかっているね、青龍君。その玄武という男から目を離しちゃいけないよ。」ひとりごとのようにつぶやく。
つまり、木下家一行に同伴している目的は、接触する人物を洗い出すこと、すなわち、泳がせておいて、行動を監視しているわけだ。
Ice Blueというのは、何を企んでいるのか。
ほどなくして、玄武の携帯電話が鳴った。
「お父さん、今入国審査が終わったよ。どこにいるん?」息子の聡からであった。
そのころ、ドイツでは、Ice Blueの当主、Code Vioretが眠りから目覚めていた。夢の中で、大阪の一部始終を見ていたようである。黒い城の眠り姫、Code Vioretは、白姫とも呼ばれる。1625年に“真祖”に噛まれてからずっと夢の中を渡ってきた。
「また、始まるのね…」Code Vioretの独り言である。
▲第三節 双極(ジェミニ)の神々(Side玄武)
「さとみさん、聞いていいですか?」ひかるがさとみに問いかける。
「お父さんの事、どう思います?誠司お父さんの事ですけど。」ひかるが恐る恐るさとみに尋ねる。
「よい上司だと思います。Black Rabbits Lには欠かせない存在ですね。皆の精神的な支えになってます。」
「そ、そうですか。あのですね、お父さんって、もうかなりの歳ですよね。松田さんご夫婦を見て、やっぱり夫婦は良いなあと思っちゃいました。そりゃあ、誠司お父さんには感謝してるけど、そろそろ自分の幸せも鑑みてほしいなあと。どこかにお父さんの交際相手、いい人いないですかね。今こんな状況になっててなんですけどね。ARKに良い人いたら紹介してくださいませんか?」
「ひかるとHikaru、見事に左右の天秤役だわ。」しろがねが離れたところからぼんやりと二人を眺めていた。しろがねはブラックのアイス缶コーヒーをすすっている。
つまり、インド要素として、今回のアセンションは、必ず物事が二極の対になっているわけか。仏陀世界のように、光があれば闇がある。陰と陽の太陰太極図世界だ。そういえば、ラーマヤーナ物語は、善と悪の永遠のせめぎあい世界だったな。
聖導王朝というのは、闇のライトワーカーなのかもな。人口削減の黒い死神世界。光と対をなす黒衣の存在。聖白色同胞団のライトワーカーと対をなす存在であるわけだ。わがIce Blueは、この聖導王朝に割り振られているわけか。まるで天使と悪魔の戦いだな。
「聞こえるか?青龍。どうやらお前だけは別の次元にいるようだな。永遠の世界の眼をもつドラキュラ君よ。G(ガーディアン)石のまがい物ではない、天然テレパス君よ。こっちはもうすぐ九州までフライトだ。西郷隆盛出生地の鹿児島まで行ってくる。その後は台湾か韓国だな。船旅になると思う。世界情勢次第だがな。誰かがコロナウイルスなんてものをまき散らしたからな。」
しろがねは、飲み干したコーヒー缶をダストボックスに投げ入れると、トイレに行くと言って木下家一行から離れた。トイレの鏡を見ながら唇にルージュを引く。鏡には、何やら靄(もや)のような影が浮かんでいる。
「青龍君、のぞき見はよくないな。鏡の中の世界から覗きはするな。また連絡するよ。じゃあね。」しろがねは唇に紅を引き終え呟いた。赤いルージュには魔よけの効果がある。
「さて、鹿児島まで飛行機で約一時間、なんか本でも読んでようかしらね。ニュースペーパーでも買ってくるか。」
一方、Black Rabbitsu Lの取りまとめ役である、木下誠司は迷っていた。レストランバニーズを休職しなければいけない事態になってしまった。今後の生活費ならびに、Black Rabbits Lの現場責任者を誰にするか考えなければいけない。とりあえず、バニーズのウエイトレスの誰かに電話してみよう。白木君がいいか。しらき、しらき、白木いつきさん。
「もしもし、白木さん?突然職場を離れてしまって申し訳ない。木下です。」
「ななしさーん、どこに行かれたのかと思って、皆で心配しています!どちらにいらっしゃるのですか?」白木という女性は、角ぶち黒メガネの文学少女である。大学生アルバイターの一人だ。
「詳しいことは帰ってから話します。しばらく休職しないといけなくなりました。突然の事態だったので、ほとんど何も準備できてません。今、西の方に来ています。」
「ななしさん、Black Rabbits Lの方に、いかめしい男性たちが来るようになったとみなが怯えています。黒ずくめのスーツの男性たちです。」
「それはたぶん、軍隊関係の諜報の人たちだと思う。実は、横須賀の米軍基地に行かなければいけなかったのだけど、それをドタキャンしてしまった。」誠司は要点をかいつまんで説明した。
「つまりは、今後はARKからの後任の人について行けば良いということですか?ななしさんが戻ってくるまでの間に限ってですけど。」
「ARKとは連絡を取っていない。今自分は海外の人といる。娘も一緒です。このまま海外に行くことも考えられる。一応落ち着いたらARKと連絡は取ってみるけど、いまはその時期ではないと思う。米軍の絡みもあるしね。」
「実は、Black Rabbits Lは、今後軍隊の諜報部隊との接触が出てくる可能性があるんだ。僕は一応お断りを入れたんだけどね。僕が居ないことをいいことに、ごり押しでそういう流れになるかもしれない。その点は申し訳ないんだけど、後からサポートを入れるからしばらく我慢してほしい。海外情勢は逐一連絡を入れる予定なので、よろしく。台湾から先はどうなるか自分にも見当がつかないけれど、今一緒にいる外国人の方々が信頼できると信じている。直感的なものだけど。ではね、よろしく後を頼みます。」携帯電話の通話を終わり、木下誠司は深いため息をついた。
木下家一行を追尾する黒ずくめの男たちがここにもいた。先ほどの携帯電話で、位置が判明してしまったようだ。アメリカ軍の特殊部隊の様だ。人数は3人から5人、木下家の関西国際空港からの行き先が分かって、あわただしく自動車に分乗していく。九州の部隊に連絡を取っているようだ。二つのG(ガーディアン)石を持つアメリカの特殊部隊“Divine Arrows”(ディヴァインアローズ)。ディヴァインアローズの二つの石は、ドイツと韓国が共同開発したものだ。インターネット、携帯電話網を、脳内でダイレクトハッキングすることができる。一方、日本の三つのJ(ジャッジメント)石は、一般通信回線網からは独立している。すなわち。三つのJ石の間でのみ通信が可能なクローズドシステムだ。現在、Laboのよい、いつ、むゆが試験的に使用している。
これから、木下家一行とDivine Arrowsの世界を股にかけた諜報戦が始まりそうである。
鍵は、Ice Blueの四か国連合構想、西郷隆盛構想の秘密であるようだ。警察世界の縮図でもあるのは、言うまでもない。諜報世界ともいう。
▲第四節 みずがめ座の輝き(Side 玄武)
「お父さん、申し訳ないけど、先に帰っててくれない?大学に寄っていきたいんだ。」両親と合流した玄武の息子、松田聡は、申し訳なさげに両親に告げた。
「お父さん、迎えに来てもらって申し訳ない。実は、京都の先輩で、准教授になってる人がいるんだけど、帰国してからぜひ話したいことがあったんだ。なるべく早いほうがいいから、これから大学まで訪れたいと思う。帰国早々お父さんとお母さんの元気な顔が見られてよかった。」
「まあ、ワシらは構わんよ。晩御飯を用意して待っとるから。スザクと大阪市内をぶらついて、適当に神戸牛でも買ってくわ。」
聡は京阪電鉄で一時間、京都の出身大学に高野准教授を訪れていた。高野の専門は農業経営学である。最近では、日本国における宇宙スペースコロニー計画の農業プラント島の設計ブレインの一端も担っている。6か国が参加する宇宙ステーション計画である。
「高野先輩、お久しぶりです。アメリカから真っ先にお会いしたくて、帰国早々飛んできました。実は、TOYOTAがらみで、大変なことが分かりました。TOYOTAが、都市計画事業に参入したのはご存知かと思います。車作りから、都市をまるまる設計する企業へと変貌を遂げるようです。その先には、明らかにスペースコロニー事業への参入を思い描いています。ところが、僕の試算によると、スペースコロニーが建設可能とされる、地球と月の間の重力バランス均衡が取れる地点群、いわゆるラグランジュポイントが、実は存在しないという可能性が見えてきました。つまり、相対性理論は破綻していて成り立たない。理論として相対論は間違っている。これに気付いたとき、僕の中で宇宙物理学の根本がひっくりかえってしまいました。そうなると、三菱グループが提唱する、軌道エレベーター構想が唯一の実現可能な宇宙開発計画となります。」
「おいおい、松田君。君の天才ぶりは昔から変わってないけど、ちょっと理論に飛躍があるんじゃないか?もう少しわかりやすく説明してくれ。アメリカで何があった?君は、アメリカの自動車メーカーに就職しただろ?五大湖の自動車メーカーだったよね。フォードとかなんとか。そこから、トヨタ自動車にでも転職したのか?」
「いえ、実はアメリカの大学で聴講生をしていました。相対性理論を詳細に研究した結果、水爆理論に行きつきました。素粒子物理学と宇宙物理学の統一場理論です。ぶっちゃけこれ以上アメリカにいると、軍に拘束されると思います。その前に慌てて休暇を取って日本に戻ってきました。」
「しかし、本当にスペースコロニー計画が机上の空論となるとすると、世界の三分の一の企業が倒産するだろうな。NASAのおこぼれを受注していた企業をはじめ、アメリカとヨーロッパ、ロシアは金融的に大打撃だ。」と高野は苦笑いしてうめいた。
「NASAのアポロ計画も、実はフェイクではなかったかと思っています。アメリカは月まで行っていない。」
TOYOTAが傾いて、三菱が躍進するのか?高野は、聡が大学時代は経済学部の神童と呼ばれていたことを思い出した。
その夜の松田家である。食事の席での玄武と聡の会話に話は移る。
「TOYOTAと三菱?」あまりのタイムリーさに玄武は目を丸くした。
キャバレーで17770円だったからなあ、と玄武は内心でひとり納得した。
「ところで、スザクのWhite Babylons(ホワイトバビロンズ)を聡に継がせるという案はどう思う? 昨日行ったキャバレーで、聡好みの女性を見つけたで。」と玄武は誘い水を向ける。
ホワイトバビロンズとは、玄武の妻であるスザクの経営するホストクラブである。
「水爆理論って、水柱ならほかの水柱にしてほしいわ。女の子に潮吹かさすくらいでやめときや。」とスザクが毒ずく。
「まあ、聡もアメリカまで行ったし、そろそろ身を固めてほしいなあ、と親としては思う訳よ。キャバレー勤めの女性が嫌なら、アメリカでいい娘を見つけてくれば良い。ただ、占い師の父と、ホストクラブ経営の母やし、あんまりハイソなお嬢様では、嫁に来てくれんかと親としては心配になるわけよ。それとも、すでにアメリカに想い人でもいるのか?聡?」
日本で水爆がらみの研究などできない。ましてや聡は経済学部出身だ。今から企業に転職してみたところで、英語能力を買われての国際営業位が関の山だろう。だとしたら、ホストクラブの経営の方が親としてはありがたいのだ。
「聡よ、実は面白い話があってな。聖導王朝というのを知っているか?」玄武は、口をイッシッシと真一文字にニタニタと笑っている。
▲第五節 時を超える星たち(Side 玄武)
時を同じくして、相馬猛の居る、関東高見台市近郊では、不可解な少女失踪事件が立て続けに起きていた。警察も、これは誘拐事件なのか、家出なのか考えあぐねていた。共通するのは、ピーターパンと約束の地に行ってくると書置きされている点である。
二人組の刑事が、とある家で事情を聞いている。
「それではお母さん、娘さんが居なくなったのは、三日前なのですね。」長瀬という中年刑事が、メモを取っている。
「はい、夜中の間に家を抜け出したようです。家出するような娘ではなかったのです。ノートの片隅に、ピーターパンとネバーランドに行ってくるとメモ書きがありました。ベランダへの窓が開いていたので、ベランダから外に出たのかもしれませんが、娘の部屋は二階ですし…。それに、娘は空想にふけるようなタイプの子供ではないのですけど。」
「長瀬さん、これで同じような失踪が三件も続いてます。どういうことでしょう?何らかの宗教団体が関係しているのでしょうか?」部下の若手刑事、滝は、部屋の中を一瞥し、きれいに整頓された机周りを調べている。」
ここは、ひかるや猛の住む高見台市から、二駅ほど離れた地である。
「わからん、家出かもしれんし、何らかの事件に巻き込まれたのかもしれん。両方の線で捜査するしかあるまい。臓器密売組織の関与も視野に入れる。」部屋の片隅には、大きな姿見の鏡が掛かっている。
「それではお母さん、娘さんからの連絡が入るかもしれませんので、なるべく家に待機していてください。警察も、近辺の調査と聞き込みを始めます。報道機関にはまだ知られないように手配します。」
その夜、猛は夢の中にいた。夢の中で空を飛んでいる。さて、今日はどこの家を訪問しよう。少女たちとの夜の散歩は、夢の中とはいえ、猛にとって心躍る体験であった。夢の中でアドバイスをくれる白い獅子にもすっかり慣れた。よくわからないが白い獅子はインド神話の神ということであった。インドでは、非常にメジャーな神であるらしい。聖獣バロンというらしいが、それ以上の情報はまだ知らされていない。夢の中で、少女を“約束の地”に連れて行けば、将来現実世界でも巡り合うことができるそうだ。白い獅子は、猛に説明しながら、口元を笑いでゆがめている。猛はそれにまだ気づいてはいない。
「グルるる…。うまそうな白バラ達だ。」赤い目をした白獅子が、三人の少女を嘗め回すような目で見つめている。三人の少女は人形のように動かない。
玄武は、夢の中で白い獅子を観た。あまりの生臭さ、獣臭に、吐き気を覚える。
「おわ、なんじゃこりゃ!」玄武は、その夢の中のぶきみな風景に、飛び起きた。三体のベビードールの人形たち。それをよだれを垂らして眺める白獅子が見えた。時刻は夜中の三時を周っていた。赤い目の白い獅子…。これはいったい何なんだ…。人形は、冷凍室にでも入ってるかのような冷気を放っている。
さかのぼること数時間。木下家一行は鹿児島空港についていた。
「鹿児島だー!」木下ひかるが伸びをする。今日の宿泊場所を探さなければいけないが、とりあえずバスにて都心に移動する。
天文館という地に、宿を見つけて、数日間の宿泊手続きを取った。
西郷隆盛構想とは何か?鹿児島に来れば、その秘密が明らかになると聞いた。
天文館の近くに、日本でも特に有名な精神科医が居るらしい。精神科医の仮面をかぶっただけの何者かかもしれないが、情報はない。訪問してみたい気はするが、坂部医師の例もある。見かけの職業で人を判断するのは危険だ。何でも、気あてリーディングという検査法を使うとのことだ。
木下さんたちは、犬は好きですか?しろがねが木下親子に尋ねる。西郷隆盛といえば犬である。
「それでは、ゲームを始めましょう。ドッグレースです。無事、犬をまくことができれば私たちの勝ちです。これから、日本国の闇をお話しします。」
「日韓併合や、満州国設立は、実は西郷隆盛構想から始まっていると言われています。台湾にあった当時の隠し金庫から、明治維新期の西郷隆盛のアイデア文書が多数出てきました。日本の大企業に成長したとある鷲のマークの製薬メーカーは、この西郷隆盛構想を元にしています。坂本龍馬構想も、西郷隆盛構想と機と一にする。これは、三菱財閥に成長しましたね。坂本龍馬暗殺後にこの計画が三菱に流れた訳です。坂本龍馬暗殺は、フリーメイソンの仕業と言われています。」
「西郷隆盛の犬とは、法曹界、すなわち警察、医師、弁護士、公務員の事です。いわゆる、官僚の特権階級ですね。これから、日本の犬をまかなければいけない。これは、社会主義世界ともいえる。Ice Blueの計画では、この西郷隆盛構想を北朝鮮にリークする。すると、日本は、朝鮮半島の支配下にはいることになる。北朝鮮の軍事力を頼りにするのです。北朝鮮の核の傘下に入ることで、逆大東亜共栄圏を構築します。
北朝鮮と台湾は、共産主義なので、社会主義と相性が良い。現在のドイツ連邦や、フランスも社会主義国です。私たちは日本の社会主義化を計画しています。」
「日韓併合、満州国設立の闇を追っていくと、大東亜共栄圏構想に行きつく。なので、西郷隆盛構想は、日本軍によって大東亜共栄圏構想へと結実したことになる。結果として、ふたつの原爆投下によって、大日本帝国の完全降伏で幕を閉じたわけです。日本の犬が暴走したわけですね。当時、日本と同盟を結んでいたドイツとイタリアも敗北したわけですが、今回は、日独伊の枢軸国に代えて、北韓日台にて三か国連合としたいのです。我々は、北韓台日をBlack4と呼んでいます。Black4でアメリカには勝てます。」
「実は、この過去の歴史問題の解決策は、実はとても簡単なことなのですけどね。ただ、絶対不可能なことでもあります。つまり、天皇家が朝鮮半島と中国から嫁を貰えばいいのです。それができないとなると、どうなると思います?日本滅亡の三段タイマーが回ります。つまり、あと三世代、100年程度で日本は滅亡です。今の日本国は、朝鮮半島のように北と南で分断されます。天皇家南北朝二極化により北海道東北の北日本界と、西日本四国九州の南日本の二極界です。海外の皇族関係者も、二極化を迎えています。北米世界も、次のステップに入りました。アメリカの秘密結社世界とのコンタクトです。」
「ローマのフリーメイソンの拠点は、すでに韓国に移動しています。坂本龍馬暗殺も、明治維新戦役に使う大量の銃の購入資金を坂本龍馬がフリーメイソンから借りた。その莫大な借り金を、返さなかったことが原因です。」
「韓国のフリーメイソンによって、すでに日本分割が決定しています。その先にいるのがアメリカですね。アメリカ世界は、現在親ドイツ派と親韓国派に分かたれています。知らぬは日本ばかりなりです。わがドイツIce Blueは、この日本分割を阻止するため、アメリカと韓国に敵対しているわけです。親北朝鮮なのは、北朝鮮には核があるからです。」
「ここで重要な選択です。今から台湾と韓国、どちらか行きの船に乗ります。パスポートはありません。この現状でどちらの船に乗りますか?」
鹿児島まで来た理由が、海外密航のためであったとは。つまり、犬(スパイ)世界問題という訳か。
▲第六節 ヒト裁き(Side玄武)
九州の天文館の飲食街である。 天体観測という歌が流れている。
「木下さんですね。」サングラスに黒づくめの服を着た男たちが、木下家の一行を取り囲んだ。
「一緒に来ていただきたい。警察ではありませんが、我々は超法規的な特権を持っています。」
しろがねが素早く動いた。服の内側から白いひもを取り出し、素早く黒づくめの一人の首を絞める。ほかの黒づくめ達は、小型の銃を構えている。
「木下さん、逃げて!」首にひもを絡ませた男を、銃を構えた黒づくめたちに投げつける。そのままダッシュで男たちに突進したしろがねは、シャープペンシルを銃を構えた男の首筋に突き立てた。
ちょうどその時。
「しろがね、お待たせ!」青い車が横付けに止まった。Ice Blueの諜報員仲間の様だ。赤いファッションの30代女性である。九州は、Ice Blueの勢力が日本で最も強い土地である。青い車は猛スピードで港を目指す。
一方、玄武と聡の会話である。
「聖導王朝ってのが、預言詩を出したということや。聖導王朝がどんな団体か、何者かは分からんけど、預言詩が当たったっちゅうて、ARKのお姫様が大騒ぎしとった。四天王ってのが居るらしい。大阪にも四天王寺ってあるわな。」
「まさか、親父…。お父さんが書いたのか?その預言詩を?」
「ご名答!ワシの矢光能力で人類の未来を占ってみた。」
「僕が水爆がらみの勉強したいと思ったのも、そういう意味かよ。つまり、北朝鮮の水爆開発が、その聖導王朝がらみにつながっていくわけか。」
「ご名答! 聡よ、原子力潜水艦二隻と、航空爆撃機一機欲しいんじゃが、いくらするかのう? 日本の水柱一本は、避けられんかった。大阪から北朝鮮のルートが正しいわい。」
「水柱一本って、水爆がどこかに一つ落ちるということか?一昔前の、インコだかなんだかの宗教団体の、第三次世界大戦の世迷い事か?」
水柱二本にて、日本を大地震が襲う。そういう予言をしていた存在がかつて日本にいたらしい。広島長崎の原爆の事だろう。津波、大津波、大地震。親鸞の予言と玄武は呼んでいる。
「すなわち、聖堂王朝は水爆三発を手に入れるわけじゃな。そのうちの一発は使わざるを得ん訳じゃ。皆には、選択の自由があるでな。今回は、Yes/No二回で、四分割の世界になっとる。選択の結果は、各自の自己責任や。ゆえに、言い訳がきかん。自己責任やから。そういう世界にしてみた。
「とんでもない親を持ったものだ…。」聡は天を仰いだ。
「聡よ、昔大阪に浄土宗の本願寺があったことは知っているな。大阪城の建っとる土地だ。一向一揆があったわな。織田信長に大弾圧を受けた宗教や。死を恐れん信徒たちは脅威やで。」玄武は真顔で聡に大阪の歴史を伝える。
「大阪は呪われている。聡よ、これから起こることに覚悟しておくことじゃ。インコちゃんの呪いとでもいおうか。」
▲第七節 宇多歌い(Side 玄武)
「レストランバニーズへようこそ!」
相馬猛と大野渚は困り果てていた。木下家と突然連絡が取れなくなった。ひかるの突然の休学以来、ななしおじさんともひかるとも音信不通である。バニーズに来れば、何か手掛かりがあるかもと思ったのだが。
ウエイトレスの一人が、注文を取るときにこっそり教えてくれた。
木下親子は、軍隊関係者と行動を共にしているので、外部のものとの連絡が制限されているとのことだった。
「そうそう、Black Rabbits Lに、新人が入ったんですよ!軍隊関係者っぽいんですけど、あちらの席に居るお客様です。」
猛とJがその新人さんに声をかける。無表情だが、中性的な肌の白い美しい少女であった。ロシア人のようにも見える。
「トランプ占い、します?」と少女は猛とJに尋ねた。
「Black4 CardsとD.D。ロシアの超能力者にしかできない占いです。ぶっちゃけ、お二人のエロ線占いですけど。この二つは、MicrosoftとApple computerに伝わる秘伝でして、生涯に経験する異性縁の数が占えるという、画期的な、特許出願したいくらいのすんごい技です。」クールな表情は崩れない。少女はトランプをシャッフルしている。
一通り占い結果が出たようだ。
「猛さん、ロリータ線出てます…。」少女はポツリとつぶやいた。
「むふ♡私みたいなのがタイプなのかな?」少女がにやける。かなりのむっつりスケベかもしれない。
「本日のBlack4Cardsを占いまーす。」
まるで、ポケットの中で戦争をしているような箱庭世界である。
一方、松田家では、
「奈良県警のものです。宗教法人ARKからの推薦により、松田さん、あなたの霊視能力により、ぜひ警察の捜査に協力していただきたい。」
「な、なんですとー!」松田玄武は椅子からひっくり返った。
「東日本で起きている、連続少女失踪事件、並びに、日本で活動する共産主義過激派事件のプロファイリング捜査をサポートしていただきたいのです。台湾系の臓器売買グループの洗い出しも視野に入れいています。」
一方、木下家一行は、黒づくめの男たちの追尾を振り切り、鹿児島の船着き場に来ていた。西郷隆盛は、どんな未来を思い描いていたのか。台湾で見つかった西郷隆盛の隠し金庫がパンドラの箱であるようだ。今、歴史が長い眠りから醒め、ゆっくりと動き出す。
「台湾と韓国、どちらに行かれます?最終目的地はインドネシアと思ってください。Black4がお待ちです。」
「玄武、青龍、白虎、朱雀。四聖獣のパートナー女性を、Ice BlueではBlack4と呼んでいます。」
・・・四聖獣、すなわち聖杯北海道。大阪の片隅で占い業をしているあの方こと占い師ゆいは、タロットをめくる。失踪事件、失せ物、あらゆるもめ事を占いにより解決に導いてきた。監視者がいることにはまだ気づいていない。
タロットをめくる。カップのXである。
「いよいよね、みずがめ座時代がはじまるのね。世界の闇が白日の下にさらされるわ。」
光と化した地球ね。
しかし、光にも二面性がある。ひかりとひかり。光と火狩りである。ふたり姫世界である。
時を同じくして、アメリカから、B-1B航空爆撃機、ランサーが発進した。核搭載も可能な機体である。方角はインドネシア、南アフリカ方面のようだ。
永遠のうた ふたり姫篇Ⅲ
Fin.
せりむすび